安倍首相:28日解散を表明 消費増税分の使途を変更

まとめると

安倍首相が、9月28日に召集される臨時国会の冒頭で衆議院を解散すると表明

解散の理由として、「生産性革命」「人づくり革命」「消費増税分の使い道を変える」ことを挙げた

とくに税にかかわる重大な変更は、国民に信を問わなければならないと述べた。


衆議院の解散

衆議院を解散するのが内閣不信任決議が可決された場合・内閣信任決議が否決された場合(憲法69)に限るかどうかが、1940年代後半から50年代にかけて、活発に論争されました。

 

憲法の基本書をチェックしたのですが、清宮[新版](1971)、芦部(1993)、佐藤幸治[新版](1990)、浦部(1996)のいずれも、大筋は下記のとおりでした。

   (1)解散は憲法69条の場合に限られない。

   (2)憲法7条に基づいて解散する慣行が成立している。

   (3)解散は国民に対して内閣が信を問う制度であるので、憲法7条による解散は、次のような場合に限られる。

  清宮 芦部 佐藤 浦部
重要問題について衆議院と内閣とがはなはだしく意見を異にする場合
内閣の重要案件が衆議院で否決・審議未了となった場合
憲法改正、条約締結など国家の大事について民意を確かめるため
選挙の争点でなかった新しい政治的課題(立法・条約締結)に対処する場合
政界再編成などにより内閣の性格が変わった場合    
内閣が基本政策を根本的に変更する場合      
議員の任期満了時期が接近している場合      
選挙法の重要な改正が行われた場合      

安倍首相の挙げた理由は本当の理由か?

9月23日の日経の記事を見る限り、「いつ選挙をすれば議席を減らさずに済むか。」という観点からいろいろ検討した形跡はありますが、「生産性革命」「人づくり革命」「消費税分の使い道を変える」というテーマで衆議院で議論された様子もありませんし、民意を問うべきかどうかを検討された形跡もないように思えます。

 

9月18日のTBSのニュースでは、「ある与党幹部は『解散理由は総理の会見を聞いてみないと私たちにもわからない』と語っているとのことです。

 

衆議院を解散して民意を問うためには、衆議院に上程して委員会で審議をしたが、野党や世論の強い抵抗がある、ため可決を見送った(又は否決された)という状況が必要だと思います。

そこまでくると、民意を問う必要があることは分かりますし、いずれを支持するべきかの判断もできると思うからです。

 

議会任期固定法(イギリス)

イギリスでは2011年に「議会任期固定法」で、内閣不信任が可決されるか、下院の3分の2が前倒しに合意すなければ解散できなくなっているそうです。

 

 その理由は、次のように言われているそうです(小松浩「イギリス連立政権と解散権制限立法の成立」立命館法学2012年1号(341号)1頁)。

① 首相が自党に有利な時期に解散、総選挙に打って出るといった不公平があるから

 (キャメロン(2005年演説)「弱い立法府と強すぎる行政府との均衡を再設定する方途を探るには、任期固定制議会を真剣に毛党すべき時だと思う」)。

② 少数政権や連立政権では政権の短命化(ハング・パーラメント)の蓋然性が高まっているから。

③ 連立政権のパートナーの同意を調達することのない解散を阻止するため。

    

つい「69条の場合のほかにも民意を問う必要がある。」ことから解散できる場合を広げる必要があることを当然のように思っていました。

しかし、解散権は「立法部があまりに強大になり、専断又は行き過ぎに陥るのを、行政部の権力によって抑制し、立法部の権力の濫用に対し国民の自由を保障するために必要な手段として用いられる」(清宮[新版]p227)ものです。

しかし、現状は、立法部ではなく行政部が強大化して暴走気味になっているのですから、それを正す手段として、解散権を制限することも考えられてよいように思えます。

何事も固定的に考えずに、いろいろ柔軟に検討すべき、と感じました。

 

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  元記事

安倍首相:28日解散を表明 消費増税分の使途を変更
毎日新聞2017年9月25日 18時20分(最終更新 9月25日 18時43分)

 

安倍晋三首相は25日午後6時から首相官邸で記者会見し、28日に召集される臨時国会の冒頭で衆院を解散する意向を表明した。「生産性革命」と「人づくり革命」を挙げ、2019年10月に予定される消費税率10%への引き上げを前提に「使い道を思い切って変えたい」と強調。今回の解散を「国難突破解散だ」と述べた。自民、公明両党で過半数(233議席)を勝敗ラインに設定した。

 首相は「税に関わる重大な変更は、国民に信を問わなければならない」と説明。自民党は衆院選で、消費増税分の使途を変更し、国の借金の返済から幼児教育無償化などに振り向ける「全世代型」の社会保障制度を訴える。しかし、財政健全化が遠のく可能性があり、与野党論戦の焦点になりそうだ。
 首相はまた、核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮問題に言及し、「国民の信任を得て力強い外交を進めていく」と述べた。
 学校法人「森友学園」「加計学園」の問題を選挙戦で野党から追及されることを想定し、引き続き「丁寧な説明」に努める考えも示した。
 東京都の小池百合子知事が新党「希望の党」を結成することについて、首相は「政策を前面に打ち出し、建設的に議論して国民の期待に応えたい」と述べた。

  元記事

議席減も覚悟、首相の賭け 電撃解散決断の舞台裏
2017/9/23 0:53 日本経済新聞 電子版


 安倍晋三首相が28日召集の臨時国会冒頭での衆院解散を決断した。電撃解散に傾いた背景には、自民党が極秘に実施した情勢調査があった。自民党の議席が減ることも覚悟し、賭けに出た。
 「少しお話しませんか」。首相は10日、日曜夜にもかかわらず、東京・富ケ谷の私邸に盟友の麻生太郎副総理・財務相を招いた。政局話などが続いた後、麻生氏が「岸信介と川島正次郎の話を思い出してみてはいかがですか」と切り出した。

 岸氏…

(島田学)

元記事

英国で6月に総選挙 知っておきたいいくつかのこと
BBC 2017年04月19日


解散・総選挙とは?
英国首相はかつて、いつでも好きな時に総選挙を実施できた。しかしデイビッド・キャメロン前首相が成立させた新法によって、仕組みが変わった。
2011年施行の議会任期固定法にもとづき、5年ごとに5月の第一木曜日に総選挙が行われる決まりとなった。最も最近の総選挙が2015年だったため、次は2020年5月の予定だった。
しかし、内閣不信任案が可決されるか、下院の3分の2が前倒しに合意すれば、総選挙の前倒しが可能となる。
メイ首相は2番目の選択肢を選んだ。つまり、自ら率いる与党・保守党の下院議員に加え、野党・労働党からも一部の議員が、選挙の前倒しに賛成する必要がある。

(英語記事 General election: What you need to know)


2017年09月25日