転居先の調査 ④

まとめると

日本郵便(株)が転送届についての23条照会に回答拒否。

 

依頼者と弁護士会が日本郵便に慰謝料を請求したが第1審は棄却。

 

控訴審は、依頼者の慰謝料請求を棄却したが、弁護士会の慰謝料請求を認容(回答義務確認の予備的請求は判断せず。)。 

 

最高裁は、弁護士会の慰謝料請求を棄却、回答義務確認請求を高裁に差し戻した。

 

名古屋高裁(差戻審)は、郵便物についての①転居届の提出の有無、②転居届の届出年月日及び③転居届記載の新住所(居所)について、控訴人に対し報告する義務があることを確認するとの判決を下した。

 

 本件確認の訴えが行政事件訴訟法〔以下「行訴法」〕4条の「公法上の法律関係に関する訴訟」に該当するか否か),

 本件確認の訴えが行政事件訴訟法〔以下「行訴法」〕4条の「公法上の法律関係に関する訴訟」に該当するとすると、

① 民訴法の視点からは同種の訴訟手続とはいえず同法136条に反するし,

② 行訴法の視点からすれば,同法が許容する併合形態ではない(いわゆる逆併合)ことになる(同法41条2項,16条,19条1項)。

③ また,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求に憲法29条3項に基づく損失補償請求(同訴訟は実質的当事者訴訟であると解するのが通説である。)を控訴審において予備的に追加することが許される場合でも,相手方の同意を要する旨を判示した最高裁平成5・7・20第三小法廷判決・民集47巻7号4627頁,判タ829号148頁に照らすと,Yが本件確認の訴えの予備的追加的変更に同意していない本件においては,本件確認の訴えは不適法となる余地がある(日本郵便も同旨の主張をした。)。

行政事件訴訟法

(当事者訴訟)
第四条 この法律において「当事者訴訟」とは、…公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。

 

(抗告訴訟に関する規定の準用)
第四十一条 2 …第十六条から第十九条までの規定は、(当事者訴訟とその目的たる請求と関連請求の関係にある請求に係る訴訟)の訴えの併合について準用する。

 

(原告による請求の追加的併合

第十九条 原告は、取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまで、関連請求に係る訴えをこれに併合して提起することができる。この場合において、当該取消訴訟が高等裁判所に係属しているときは、第十六条第二項の規定を準用する。
2 前項の規定は、取消訴訟について民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第百四十三条の規定の例によることを妨げない。

 

(請求の客観的併合)
第十六条 2 …関連請求に係る訴えの被告の同意を得なければならない。被告が異議を述べないで、本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、同意したものとみなす。

判示

 23条照会を受けた者が負う報告義務は公法上の義務であるが,本件における弁護士会と日本郵便との紛争は…「公法上の法律関係に関する確認の訴え」ではなく、本件確認の訴えは,原則に戻り,民事訴訟である。

控訴審において本件確認請求を予備に追加することの適法性

民事訴訟法

(請求の併合)
第百三十六条 数個の請求は、同種の訴訟手続による場合に限り、一の訴えですることができる。

 

(訴えの変更)
第百四十三条 原告は、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで、請求又は請求の原因を変更することができる。ただし、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることとなるときは、この限りでない。

 

判示

 同種の訴訟手続である損害賠償請求に本件確認請求を追加的に併合することは許される。

 

  本件拒絶の正当理由の有無は,損害賠償請求の可否の判断の前提となっていたから,両請求にはその基礎に同一性が認められるから,弁護士会が控訴審において本件確認の訴えを追加的に変更したことは適法である。

 

 なお,仮に本件確認の訴えが「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に該当する余地があるとしても,損害賠償請求に本件確認請求を併合することは訴えの追加的変更に準じて認められ(行訴法19条2項),日本郵便の同意(行訴法41条2項,19条1項,16条2項)は要しない。

 

本件確認の訴え自体の適法性(確認の利益の有無),

日本郵便の主張

 差戻前最高裁判決は,23条照会に対する報告を受けることについて弁護士会が法律上保護される利益を有するものとは解されず,23条照会に対する報告を拒絶する行為が,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはないと判示したことから,日本郵便は,本件確認の訴えには即時確定の利益がない旨を主張した。 

判示

 ①確認請求が認容されれば、上告人が報告義務を任意に履行することが期待できること、②日本郵便は、認容判決に従って報告をすれば、第三者から当該報告が違法であるとして損害賠償を請求されたとしても、違法性がないことを理由にこれを拒むことができること、③弁護士会は、本件確認請求が棄却されれば本件照会と同一事項について再度の照会をしないと明言していることからすれば、本件照会についての報告義務の存否に関する紛争は、判決によって収束する可能性が高いと認められる。 

 

 → 本件確認の訴えは適法である(訴えの利益が認められる。)。

 

本件拒絶の正当理由の有無

 23条照会を受けた者において,報告をしないことについて正当な理由があるときは,その全部又は一部について報告を拒絶することが許される。

 

 転居届に係る情報は,憲法21条2項後段の「通信の秘密」にも郵便法8条1項の「信書の秘密」にも該当しないが,同条2項の「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に該当するから,日本郵便はは同項に基づく守秘義務を負うと認められる

 

  他方,23条照会制度は,司法制度の根幹に関わる公法上の重要な役割を担っているから,23条照会に対する報告を拒絶する正当な理由があるか否かは,照会事項ごとに,これを報告することによって生ずる不利益と報告を拒絶することによって犠牲となる利益との比較衡量によって決せられるべきであること,

 

 本件では,転居届の有無,届出年月日及び転居届記載の新住所(居所)については,強制執行手続をするに当たりこれらを知る必要性が高く,Yの守秘義務に優越するため,Yには報告義務がある

 

 新住所(居所)の電話番号は,Bの住居所を知る手段としては間接的であり,Yの守秘義務に優先しないから,その報告拒絶には正当な理由がある旨を判示した。

 

 

元記事

名古屋高裁平成29年6月30日判決(判例タイムズ1446号76頁)

 

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2019年01月14日