「おっさん同士がケンカ」と警察にウソ電話か…携帯番号から特定され逮捕の男「納得できない」

まとめると

 平成31年4月16日正午ころ、岐阜県警本部に「おっさん同士がケンカしていますよ。一方的に殴っている」と2度通報があった。

 

 パトカー5台、警察官14人が現場に向かいましたがトラブルはなかった。

 岐阜県警は、通報があった携帯電話の番号から容疑者を特定。16日午後、緊急逮捕しました。

 調べに対し、容疑者は「逮捕されたことに納得できません。見たことを伝えただけです」と容疑を否認。

 

 

虚偽通報と業務妨害

 警察への虚偽通報や、虚偽の犯罪をネットでアップしたり、警察官の前で演じたりして、逮捕されたり書類送検をされる事案がよく報道されています。

 

 虚偽の通報1600回超…110番にいたずら電話、容疑の男逮捕 昼夜問わず、1日に数百回の日も/久喜署 

埼玉新聞 2018年8月8日

 

「大家が同情を…」家賃滞納で強盗被害の虚偽110番

2018.11.29 17:26産経WEST 

(→ 書類送検)

 

 Twitterで「人が刺された」とデマ動画投稿 警視庁が20代の男女4人を書類送検

HUFFPOST 2019年04月08日 16時07分 JST | 更新 2019年04月08日 16時42分 JST

 

ひったくりと虚偽通報 偽計業務妨害の疑い 31歳女を書類送検
2019.3.15 11:44 産経新聞

(→母親から預かったお金を盗まれたことにして、そのお金で自分の借金を返したようです。)

 

警視庁女性職員を書類送検 誘拐装い業務妨害容疑

2017/10/20 23:16 神戸新聞Next

(→ 帰省中に家族と口論になり、実家を飛び出して父親に「娘を誘拐した」というLINEを送信したようです。)
 

非有効通報

 奈良県警の場合、2018年の110番へ通報は9万4846件

(1日平均約260件。単純計算で5分32秒に1件)。

 

 このうち「非有効」は1万8843件

(全体の約2割)

 

 「人が殺され」と虚偽通報 警察悩ます悪質110番の実態 2019.3.12 10:00 産経新聞

 

「非有効」には、いたずら電話や無言電話、間違い電話も含まれているとのことですが、確かに、毎日1時間に1本「非有効通報」があるというのであれば、「業務妨害だ」というのもわかります。

 

業務妨害罪か、軽犯罪法か

 業務妨害については、

   公務執行妨害罪、

   威力業務妨害罪・偽計業務妨害罪

   虚偽通報(軽犯罪法の16号)

   悪戯業務妨害(軽犯罪法31号)

の4つの犯罪類型が定められています。

 

 警察への虚偽犯罪通報はどれにあたるというべきか、について立命館大学の生田勝義名誉教授の論文がありました。

 

 警察への虚構犯罪通報は偽計業務妨害か? - 立命館大学

 

取り扱いの変化と理由

 生田名誉教授によると、虚偽通報は、戦前には違警罪ないし警察犯として扱われ、戦後には軽犯罪として扱われてきた。

 

 ところが,最近の刑事実務では,それらを刑法典上の犯罪である偽計業務妨害罪に当たるものとして扱う傾向が出てきているとのこと。

 

 その直接的な契機として大きかったのは,テロ対策の進展とそれに伴う警備の強化・拡大への要請である。

 

 また、間接的には、公権力の役割を後退させる(公務も全て業務の一種だとして公権力と業務の質的な違いを無視する)新自由主義の国家観の影響もあったとみるべき。

 

従来の学説

 公務執行妨害罪は、公務を「暴行・脅迫」で妨害した場合だけ規定している。

 では、「偽計」や「威力」による公務の妨害は(公務執行妨害にはあたらないとしても)業務妨害罪にあたないか?

 

① 業務妨害罪は成立しない(吉川)
批判)公務も、暴行・脅迫以外の妨害から保護されるべき。

 

② 非公務員の公務のみ偽計・威力業務妨害罪になる(内藤)
批判)公務員の公務も、暴行・脅迫以外の妨害から保護されるべき。

 

③ すべての公務について偽計・威力業務妨害罪が成立(植松・大谷) 

批判)強制力を行使する権力的公務は、暴行・脅迫に至らない妨害に対しては保護の必要性が欠ける。

 

④ 一定の公務(現業性・民間類似性・非権力性)のみ偽計・威力業務妨害罪が成立(団藤・前田、なお、福田・大塚・西田は公務執行妨害罪の対象にもなるとする)
批判)強制力は偽計に対しては無力

 

⑤ すべての公務について偽計業務妨害罪が成立、一定の公務(現業性・民間類似性・非権力性)については威力業務妨害罪も成立(公務執行妨害の対象にもなる)(山口p158)

 

生田名誉教授の見解

 自力執行力とか妨害排除力が威力に対しては有効だが偽計に対しては無力だといった基準で権力的公務への反抗や抵抗を広く刑罰の対象にするという発想は,権力的強制力が国民支配・統制にとって有効かどうかということを重視するものである。

 

 これは機能主義的発想からはありうる見解であるが,機能主義にはやはり導きの糸として理念や価値基準が必要である。

 

そのような理念や価値基準となるのが,日本国憲法の体現する戦後的な立憲主義的国家観・人間観。

 

日本国憲法は自由で民主的な法治国家(立憲主義国家)を目指している。

 

その観点から、公務に対する妨害を犯罪とするか否か、犯罪にあたるとしてどの規定によるべきかは、国家の権力行使に対する国民による反抗・抵抗の処罰を国民の自由との緊張関係を考慮して限定しなければならない。

 

 警察のような権力的公務に対しては、政治的理由による反抗や抵抗があるとか,強制力行使には往々にして感情的な反抗や抵抗が伴いがちであることへの配慮が必要。すなわち,権力的公務については、権力の強大さを自覚したうえで、反抗や抵抗に対しては寛容の精神をもって対処するべきである。

 

公務の中で国民の権利を一方的に侵害する内容をもつために濫用に陥りやすいものを,適法性という厳格な要件と暴行・脅迫による抵抗のみを排除するという要件の下で,刑法上保護の対象としていると考えるべき(ここは、村井俊邦教授の論説を引用)

. 

権力的公務に対して、「偽計」「威力」で妨害しても、(公務執行妨害罪が成立しないのはもちろん)、業務妨害罪も成立しない。せいぜい軽犯罪法に該当するかどうかが問題となるのみ。

 

感想

 業務妨害罪の「業務」に「公務」は含まれるか?という問題よりも、軽犯罪法ではなく業務妨害罪を適用するようになった理由・背景を深めてほしかった。

 

 取り扱いの変化の背景に、新自由主義による公務の軽視があるというのはピンときません。

 むしろ、お上への反抗に対する「寛容性」が失われたことの方が背景ではないかと思われます。そして「寛容性」が失われていく過程をたどり、それに影響を与えた出来事や影響を与えることになった試みを知りたいと思いました。

 

元記事

「おっさん同士がケンカ」と警察にウソ電話か…携帯番号から特定され逮捕の男「納得できない」 東海テレビNews 4/16(火) 21:59配信

 

<<古い記事(京都の女性切り付けは「自作自演」だった      

ブログ一覧 

(娘に万引をさせる母親)新しい記事>>

 

2019年04月20日|ブログのカテゴリー:刑法, 業務妨害罪, 軽犯罪法