今までは、預金は自動的に法定相続分で分割され(民法427条 可分債権)、遺産分割協議で分割されるのは残りの財産のみ、というのが最高裁の判例でした(最判平16・4・20判時1859-61、最判平17・9・8民集59-7-1931)。
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亡くなった人の預貯金を親族がどう分け合って相続するかについて、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は19日の決定で、「預貯金は法定相続の割合で機械的に分配されず、話し合いなどで取り分を決められる『遺産分割』の対象となる」との判断を示し、遺産分割の対象外としてきた判例を変更した。一部の相続人が生前に財産を贈与されていた場合に生じていた不平等が解消される。
これまでも全員が合意すれば預貯金も自由に分けられたものの、決裂した場合は民法の法定相続分に従い「配偶者が5割、残りの5割を子供の数で平等に割る」というように機械的に配分されてきた。2004年の判例も「預貯金は当然、法定の相続割合で分けられる」と判断していた。
決定は「預貯金は現金のように確実かつ簡単に見積もることができ、遺産分割で調整に使える財産になる」と指摘。「預金者の死亡で口座の契約上の地位は相続人全員で共有されており、法定相続割合では当然には分割されない」として04年判例を変更した。15人全員一致の結論。
大法廷が審理したのは、死亡した女性の預貯金約3800万円を巡り遺族2人が取り分を争った審判。1人は約5500万円の生前贈与を受けていたが、1、2審の決定は判例に従って法定割合の約1900万円ずつ分配するとした。大法廷は、具体的な相続内容を改めて遺族同士で決めるために審理を2審・大阪高裁に差し戻した。
窪田充見(あつみ)神戸大大学院教授(民法)の話 多額の生前贈与を受けたような人とそうでない人の不公平が解消され、大きな意味がある判例変更だ。取り分があると主張する相続人から預金の払い戻し請求を受けた場合、これまで銀行の対応はさまざまだった。今後は遺産分割が終了するまでは預金の払い戻しに応じないという扱いが一般的になると考えられる。他方で、生活費や葬儀代など当面の資金を必要とする人には迅速な対応も必要となる。この点は法制審議会で議論が続いており、立法での手当てが求められる。
遺産分割
ある人の死後に遺産総額を計算した上で、複数の相続人に分配する制度。相続人の話し合いで取り分を決められるが、協議がまとまらなければ家庭裁判所の調停や審判に移る。現金、不動産、株式などは遺産分割の対象とされている。
今回の判例変更で、相続はどう変わるのか
亡くなった人の預貯金は「遺産分割」の対象となり、機械的な配分に縛られずに遺族同士が話し合いなどで取り分を決められるとの判断を、最高裁大法廷が19日の決定で示した。今回の判例変更で、相続はどう変わるのか。父ときょうだい2人のケースを想定してみた。
父は長男と同居し、2000万円の預金を残して病死した。遺言はなかった。長女は結婚して実家を離れたものの、もともと父から1000万円の資金援助(生前贈与)を受けていた。
長男は取り分について「自分は生前贈与を受けていないので、預金を全額相続する」と主張した。一方、長女は「自分にも預金を相続する権利がある」と譲らず、話し合いはまとまらなかった。
この場合、従来の判例に従えば、法定割合(それぞれ2分の1)に従って機械的に預金を1000万円ずつ分け合うことになる。他に遺産分割するものがない場合は生前贈与分は分け合う対象にならない。長男は預金1000万円しか得ることができないが、長女は生前贈与と預金の計2000万円を取得し、1000万円の差が生まれてしまう。
判例変更後は、預金が遺産分割の対象となるため、生前贈与を合わせた計3000万円分が遺産総額となる。取り分は法定の割合に従って1500万円ずつとなり、長男は預金1500万円、長女は生前贈与に加えて預金500万円を受け取ることが可能になる。
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