日産自動車のカルロス・ゴーン元会長の逃亡事件などを受けて、法制審議会は、保釈中に海外逃亡のおそれがある被告にはGPSを装着させる制度の創設を盛り込んだ要綱を決定し、古川法務大臣に答申しました。
また、人を侮辱した行為に適用される侮辱罪に懲役刑を導入し、法定刑の上限を引き上げることも答申しました。
近年、裁判所が保釈を認めるケースが増える一方で、日産のゴーン元会長がレバノンに逃亡するなど、保釈中の被告らが逃走する事件が相次いでいることから、法制審議会は、刑法などの見直しに向けた要綱を決定し、古川法務大臣に答申しました。
要綱では、
▽保釈中、海外に逃亡することを防止するため、裁判所が必要と認めた場合にかぎり、被告にGPSを装着させる制度を創設し、立ち入りが禁止された空港などに侵入した際は、位置情報を確認して身柄を確保することができるとしています。
そして、
▽保釈中の被告らが裁判所に出頭しない行為や、裁判所が指定した住居から一定期間離れる行為について、新たに処罰の対象とし、いずれも2年以下の懲役を科すとしています。
また、法制審議会は、SNS上のひぼう中傷対策を強化するため、公然と人を侮辱した行為に適用される侮辱罪に懲役刑を導入する方針を決定し、法定刑の上限を引き上げて「1年以下の懲役・禁錮」と「30万円以下の罰金」を追加することも答申しました。
さらに、21日の答申には、弁護士などの仲裁人が、外国企業などとのトラブルを解決する「国際仲裁」制度の強化策も盛り込まれ、仲裁の手続きが始まってから判断が出るまでの間、一時的に財産や証拠を保全するために、裁判所による強制執行を可能にするとしています。
法務省は、来年の通常国会に、刑法などの改正案を提出したいとしています。
GPS装着 導入方針の背景は
21日の答申には、保釈中の被告の海外逃亡を防ぐため、裁判所が必要と認めた場合にかぎり、被告にGPSを装着させる制度の創設が盛り込まれました。
こうした方針が打ち出された背景には、保釈されたあとに逃走したり、裁判所に出頭しなかったりするケースが相次いでいることがあり、この10年で保釈が取り消された人は200人余りとおよそ5倍に増加しています。
そして、被告がGPSを破壊したり、立ち入りが禁止された空港や港湾施設に侵入したりするなど、出国するおそれが高い行動をとった時は、裁判所や検察官が位置情報を確認して、身柄を確保することができるとしています。
一方で、被告のプライバシーなどを保護するため、保釈中の行動に異常がない場合は、位置情報の確認を禁止しています。
GPSのシステムは裁判所が管理することになりますが、実際の運用を民間に委託するかや、被告の体のどこにGPSを装着するかなど、具体的な方法については決まっていません。
侮辱罪に懲役刑導入 期待の声も
SNS上でのひぼう中傷をめぐっては、匿名の投稿に追い詰められて、被害者がみずから命を絶つ事件も起きていて、ことし4月には、投稿した人物を速やかに特定できるよう新たな裁判手続きを創設する「改正プロバイダ責任制限法」が成立しました。
一方、投稿した人物の刑事責任については、公然と人を侮辱した行為に適用される侮辱罪の法定刑が「30日未満の拘留」か「1万円未満の科料」と刑法では最も軽いことから「被害の実態に見合っておらず、抑止力になっていない」という指摘があります。
そこで、法制審議会は、侮辱罪に懲役刑を導入する方針を決定し、法定刑の上限を引き上げて「1年以下の懲役・禁錮」と「30万円以下の罰金」を追加するよう求めていて、引き上げが実現した場合、現在は1年の時効が3年に延びることになります。
このため、犯罪の抑止効果に加えて、加害者の特定に時間がかかるとされるSNS上での投稿に対し、捜査に時間をかけることが可能となることから、立件につながりやすくなると期待する声もあります。
元記事
NHKニュースweb 2021年10月21日 19時19分