まとめると
夫婦同姓は法の下の平等に反するとして慰謝料請求訴訟が提起される。
男女不平等ではなく、国際結婚の場合と比べて不平等という理由。
夫婦別姓(最高裁判決)
最高裁H27.12.16(民集69-8-2586)については、以前触れたことがあります(公文書、旧姓でOK)。
この裁判で、夫婦同姓が、男女不平等なのではないかと争われました。
① 婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえず、
民法750条は、自らの意思に関わりなく氏を改めることを強制しておらず、また、民法の規定においては、氏が身分関係の変動に伴って改められることが性質上予定されていることに鑑みると、同条は憲法13条に違反するものではない。
② 夫婦が婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称すると定める民法750条は、夫婦がいずれの氏を称するかを協議に委ねているのであり、憲法14条1項(法の下の平等)に違反するものではない。
③ 夫婦同氏制は我が国の社会に定着しており、家族の呼称を一つに定めることには合理性があり、同制度には家族構成員であることを対外的に公示し識別する機能があるなどの意味がある。
婚姻によって氏を改める者が不利益を受ける場合があることは否定できず、現状では妻となる女性がその不利益を受ける場合が多いことが推認できるが、婚姻前の氏の通称使用が広まることにより右不利益は一定程度は緩和され得る。以上を総合すると、民法750条は、憲法24条(両性の平等)に違反するものではない。この種の制度の在り方は国会で判断されるべき事柄である。
今回の訴訟
今回の訴訟では、夫婦別姓が国籍による差別ではないか、という争い方をするようです。
法務省の国際結婚,海外での出生等に関する戸籍Q&AのQ6に、現行法の簡単な解説があります。
国際結婚では、夫婦別姓が原則で、例外的に日本人が外国人の姓に変更することが認められています。
(外国人が日本人の姓に変更できるかどうかは、当該外国の法律によります。)
通則法(国際私法)
日本人と外国人が結婚した場合に、氏や戸籍をどうするかについては、まず、どの国の法律が適用されるかが問題になります。これを定めるのが法の適用に関する通則法(国際私法)です。
しかし、国際私法は非常にやっかいです。
民法では、通説的な学説と判例・裁判例が対立しているとしても、共通の基盤に立って理由を挙げて自らの正当性を主張しているのですが、国際私法では、異なる土俵で場合によっては理由も挙げずに結論を挙げているだけという場合があります。
また、民法では、最高裁判決がでるとその後の下級審裁判例はそれに統一されるのですが、国際私法では統一されないどころか下級審裁判例は逆の判断を下すものが続いたりすることもあります。
婚姻による氏の変更について見ると、
① 婚姻の効力の問題である(東京家審S43.2.5家月20-9-16 )というものと、
→通則法25条により、夫婦の共通本国法が、これがないときは夫婦の共通常居所地法が、これもないときは夫婦の密接関連地法が適用されます。
② 人格権たる氏名権の問題として本人の属人法による(京都家審S55.2.28家月33-5-90)
→夫婦それぞれについて属人法=本国法が適用されます。
というものがあります。
夫婦同姓(民法750)は、国籍による差別か
②婚姻による氏の変更が人格権の問題とする場合、外国人の氏について日本法は手を出せないので、日本人カップルの場合と国際カップル(?)の場合で差が生じてもやむを得ないという結果になりそうです
①婚姻による氏の変更は婚姻の効力によるとする場合、夫婦とも日本に居住する国際カップル(?)の場合、外国人の氏を変更するかどうかの問題に日本法が適用されることがあり得ます。
そうすると、民法750条で夫婦同姓にするべきとされていますが、戸籍法では下記のように、日本人の氏は変えても変えなくてもよく、外国人の氏については変える規定がありません。
外国人について戸籍を編成することができないとしても、他の場面では届出書を保管するという方法で戸籍に代えています。しかし、婚姻による氏の変更についてはそれをしていません。
言い換えれば、戸籍法が、夫婦同姓を強制する手続きを用意していないため、夫婦同姓を実現することができない場合が生じます。その結果(反射的に)国際結婚については夫婦別姓が認められたかのような状態となります。
そうすると、日本人カップルの場合と国際カップル(?)の場合で差が生じるのは平等権に反するのではないかという問題もでてきそうです。
民法
第二節 婚姻の効力
(夫婦の氏)
第七五〇条
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
戸籍法
第六条 【戸籍の編製】
戸籍は、市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する。ただし、日本人でない者(以下「外国人」という。)と婚姻をした者又は配偶者がない者について新たに戸籍を編製するときは、その者及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する。
第一六条 【婚姻による新戸籍の編製】
① 略
② 略
③ 日本人と外国人との婚姻の届出があつたときは、その日本人について新戸籍を編製する。ただし、その者が戸籍の筆頭に記載した者であるときは、この限りでない。
第一〇七条 【氏の変更】
① 略
② 外国人と婚姻をした者がその氏を配偶者の称している氏に変更しようとするときは、その者は、その婚姻の日から六箇月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出ることができる。
③ 略
④ 略
元記事
夫婦別姓
「戸籍法は容認」 国際結婚で選択可、民法合憲を問う 事実婚2人提訴へ
毎日新聞2017年9月15日 大阪朝刊
戸籍法の規定で外国人と結婚した場合は夫婦別姓を選べるのに、日本人同士だと夫婦同姓しか認められないのは法の下の平等に反して違憲だとして、岡山県に住む日本人で事実婚の夫婦が来年1月にも、慰謝料など約220万円の支払いを国に求める訴訟を岡山地裁に起こす。民法の夫婦同姓の規定を巡って最高裁は2015年に合憲と判断したが、戸籍法の規定に着目した提訴は初めて。【高橋祐貴】
訴えを起こすのは30代の夫と50代の妻。数年前から同居しているが、夫婦別姓を望んでいるため婚姻届は出していない。
民法は「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する」と規定し、夫婦同姓の根拠となっている。一方、日本人が外国人との婚姻を届け出た場合、外国人には戸籍がないため原則別姓となる。しかし当事者から「外国の姓も認めて」との要望を受けて1984年に戸籍法が改正され、市区町村に姓の変更届を提出すれば同姓を名乗れるようになった。外国人と婚姻する日本人は実質的に同姓か別姓かを選べることになった。
原告側は「日本人同士の場合のみ、氏名に関する権利を尊重する制度を設けない理由はない」とし、法の下の平等を保障する憲法14条などに違反して不合理な差別だと主張。法的な婚姻を結べず、精神的苦痛を受けたとしている。
会社員の妻は職種の関係で戸籍氏名の使用が求められている上、20年にわたってその氏名でキャリアを積み上げてきた。夫が妻の姓を名乗ることも考えたが、家庭の事情で断念したという。日本社会で法律上の夫婦になれないデメリットは大きく、夫婦は「互いに相続権がなく、生命保険金の受取人になれない。病気の時に手術の同意書にサインする権限もない」と訴えている。
戸籍制度を規定する戸籍法は、民法を実現するための付随的な手続き規定とされている。このため専門家からは、戸籍法の規定を根拠に民法の妥当性を争うのは難しいという指摘もある。原告の代理人を務める作花知志(さっかともし)弁護士(岡山弁護士会)は「夫婦別姓の問題に悩む人が多い。争い方を少し変えることで流れが変わる可能性はある」としている。
.