道路を「私有地」と主張 “通行トラブル男”を逮捕

まとめると

平成29年11月8日、自分の家の前を通った男性を転倒させ、けがをさせた疑いで、大阪・堺市に住む男が逮捕された。

自宅前の道路を「私有地」と主張し、「私有地に勝手に入った自転車を止めようとしただけ」と違法性を争っている。

 

平成27年11月24日には、道路に植木鉢を置くなどしていたため、往来妨害罪で逮捕され、執行猶予付きの有罪判決を受けた。今回は執行猶予中だった。

平成17年にも「自宅前に犬のフンを放置する者がいる」と主張して私道に金網フェンスをはったとして、往来妨害容疑で逮捕されている。

 

 

道路の種類

道路は、次のように区分されています。

1 公道

 (1)道路法による道路(道路法2,3)

   ① 高速自動車国道

   ② 一般国道

   ③ 都道府県および市町村道

 (2)里道

    明治9年の太政官布告第60号で里道に指定された道で、

   大正8年の旧道路法で市町村道に指定されなかったもの。

    登記簿には登載されておらず、公図では番地を記載されておらず

   赤色に着色されていたり、「道」と記載されている。

    従来は国交省所管の国有財産とされてきた。

    平成12~17年に市町村・都の特別区に譲与された。  

 (3)その他の法律による道路
      農業用道路(土地改良法2Ⅱ①)
      林道(森林法4Ⅱ④、5Ⅱ⑤)

    自然公園道(自然公園法15Ⅰ)

    など

3 私道

 

私道の利用方法(原則)

私道は、所有者が利用方法や維持管理も自由に定めうる。

私道の利用方法(制限)

次のような法律などで、所有者が自由にできない場合があります。

囲繞地通行権(民210)

(公道に至るための他の土地の通行権)

第二一〇条 
① 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。

第二一一条 
② 前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。

通行地役権(民280)

(地役権の内容)
第二八〇条 
地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。 

契約に基づく通行権

契約で地主が相手方に通行権を認めた場合、契約に従って通行させなければなりません。

建築基準法上の位置指定道路(法42Ⅰ⑤)みなし道路(法42Ⅱ)

(位置指定道路・みなし道路の定義)

第四二条 
① この章の規定において「道路」とは、次の各号の一に該当する幅員四メートル(…)以上のもの(…)をいう。

一~四 略

五 土地を建築物の敷地として利用するため、…築造する…道で、これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもの


② この章の規定が適用されるに至つた際現に建築物が立ち並んでいる幅員四メートル未満の道で、特定行政庁の指定したものは、前項の規定にかかわらず、同項の道路とみなし、その中心線からの水平距離二メートル(…)の線をその道路の境界線とみなす。…。

接道要件

(敷地等と道路との関係)
第四三条 
① 建築物の敷地は、道路(…)に二メートル以上接しなければならない。ただし、…。

 

道路内の建築制限、私道の変更・廃止の制限

(道路内の建築制限)
第四四条 
① 建築物又は敷地を造成するための擁壁は、道路内に、又は道路に突き出して建築し、又は築造してはならない。


(私道の変更又は廃止の制限)
第四五条 
① 私道の変更又は廃止によつて、(接道要件)に抵触することとなる場合においては、特定行政庁は、その私道の変更又は廃止を禁止し、又は制限することができる。

無断通行は違法か?

一般の第三者は、建築基準法による規制の「反射的効果」として、位置指定道路・みなし道路を通行することができます。

 

=通行することは違法ではない。

通行を妨げられたとき、建築基準法に基づいて何ができるか?

位置指定道路・みなし道路の通行は、個人の権利ではないので、通行妨害されても、妨害排除を請求できないと理解されています。

生活権や、人格権を侵害されたとは言えないか?

しかし、自宅と外部とを行き来することは、人間の基本的生活利益に属するので、これを妨害された場合の不利益は大きいので、法的に保護する必要があります。

 

そこで、位置指定道路やみなし道路の、

①通行が日常生活上不可欠であり、

②私道所有者が通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情がない場合は、

妨害行為の排除や将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)が認められています(最判H9.12.18(民集51-10-4241))。

 

私道の税金・登記

そのほか、私道については、普通の私有地と違う取り扱いがなされています。


  (1)地方税法(348Ⅱ⑤、702の2Ⅱ、73の4Ⅱ)

  →「公共の用に供する道路」にあたり、固定資産税・都市計画税・不動産取得税を非課税としています。


  (2)不動産登記法施行令(3)

  →登記簿の地目として「公衆用道路」を選択できます。

 

(3)道路交通法(2Ⅰ①)

  → 「一般交通の用に供するその他の場所」として道交法の規制を受けます。

刑事事件としては?

傷害罪・暴行罪

刑法

(傷害)
第二〇四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。


(暴行)
第二〇八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。


(正当防衛)
第三六条 ① 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。② 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

 

(緊急避難)
第三七条 ① 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。② 前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。

 

犯罪となるか?

傷害罪又は暴行罪は成立するでしょう。

 

正当防衛、緊急避難ともならないでしょう。

民事上、通行人に妨害を排除する権利が認められないとしても、通行することは適法です。
 また、刑事上、私有地であっても、塀で囲われた建物の敷地を通行したのであればともかく、私道を通行したからといって違法とはされないでしょう。
 ですから、通行人に対する暴力が、正当防衛や緊急避難になるとは思えません。


往来妨害罪

刑法

(往来妨害)

第一二四条 ① 陸路、水路又は橋を損壊し、又は閉塞そくして往来の妨害を生じさせた者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

 

閉塞したといえるか

往来妨害罪は、陸路を「閉塞」した場合=障害物を置いて道路を遮断する場合をいうとされています。

 

今回は私道の真ん中にいすを置いて監視し、人が来ると自ら立ちふさがって威嚇しています。

 

往来妨害罪は「損壊」と「閉塞」を並記して処罰しているので、「閉塞」は「損壊」と価値的に同視できる程度に達している必要があるという裁判例があります(名古屋高判S35.4.25高刑13-4-279)。

 

逆に、その「閉塞」については、排除の容易でない方法、態様による妨害行為に限ると解すべきものではなく、それ以外においても、一般に往来を困難にならしめると認められるような方法、程度、態様において、物的障害物を道路上に堆積して遮断する場合をも含むものと解するのが相当という裁判例もあります(東京高判S54.7.24判時956-135)。

 

私道の所有者が閉塞した場合

私道を所有者が閉塞した場合については、次のように判示されてており、往来妨害罪については、「私有地に勝手に入った自転車を止めようとしただけ」という反論は通らないようです。

 

① その通路敷地所有権が何人に属するかを問わず…往来妨害罪が成立する(最決S32.9.18裁判集刑120-457

 

② 通行権利者の権利行使が妨害されたことを要件とするものではない(東京高判S54.7.24判時956-135)

 

③ 道路を改築する権限を有する道路の管理者が、専ら特定人の往来を妨害するために道路改築を決し、道路又は橋を損壊する行為は、職権の濫用であり、往来妨害罪となる。(大判S2.3.30刑集6-145)

 

道路交通法

(禁止行為)
第七六条 
 何人も、交通の妨害となるような方法で物件をみだりに道路に置いてはならない。

 →三月以下の懲役又は五万円以下の罰金(百十九条第一項第十二号の四)
④ 何人も、次の各号に掲げる行為は、してはならない。
二 道路において、交通の妨害となるような方法で寝そべり、すわり、しやがみ、又は立ちどまつていること。
  →五万円以下の罰金(第百二十条第一項第九号)

【続報】

自宅前にペットボトル並べ監視 道交法違反疑いで送検

 

民事事件としては?

公図を見ると、この私道は位置指定道路のようです。

また、付近の地主9名の共有とされていたようです。

 

私道の「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。」(民法249)ので、共有者が通行するのを妨げた場合は、妨害排除請求や損害賠償請求が認められるでしょう。

 

他の人が通行するのを妨げた場合についても、①通行が日常生活上不可欠であれば、②容疑者に著しい損害を被るなどの特段の事情があるとは思えませんので、妨害排除請求や損害賠償請求が認められるでしょう。


 

元記事

道路を「私有地」と主張 “通行トラブル男”を逮捕

関西テレビ 11/9(木) 20:00配信

 

【植木鉢バリケード】近隣住民の終わらぬ恐怖

東スポweb 2015年11月26日06時30分



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2017年11月11日