「性的な被害」を初めて明記 女性支援新法の全容判明
困難な問題を抱える女性を支える法案の全容が3月14日、判明した。女性が抱える困難な問題の原因の一つとして「性的な被害」を明記した。参議院法制局によると、法律の本則でこの言葉が使われるのは初めて。「性的な虐待」よりも広く捉え、支援対象とする。法案は各党内で3月末までに審査され、超党派の議員立法として通常国会に提出される見通しだ。
同日刷り上がった法案が公明党の厚生労働部会、婦人保護事業の見直し検討プロジェクトチーム(PT)の合同会議で審査、了承された。PT座長の山本香苗・参議院議員は「婦人保護事業を売春防止法から抜き出し、令和版にバージョンアップする」と語った。
新法の名称は「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律案」。支援対象は性的な被害、家庭の状況、地域社会との関係性などにより困難な問題を抱えた女性で、年齢制限は設けない。
現在の婦人保護事業は、売春をする恐れのある女性を「要保護女子」として保護更生するもの。女性を処罰する意味合いが強く、困りごとを抱えて支援を要する女性という福祉的な視点は乏しい。
合同会議には、女性支援にあたる関係者8人も出席した。
その一人、婦人保護施設慈愛寮(東京都)の熊谷真弓施設長は「慈愛寮は全国で唯一、妊産婦支援に特化した施設で、予期せぬ妊娠など『産む性』を持つがゆえの困難の最前線にいる。『性的な被害』という文言はとても大事だ」と評価した。
理念に「福祉の増進」
新法は基本理念に「女性の福祉の増進」「民間団体との協働」「人権の擁護」を盛り込んだ。厚生労働大臣が定める基本方針に基づいて都道府県・市区町村が取り組みの計画を作る。これまであいまいだった地方自治体の役割を明確にする。
婦人保護事業には都道府県に必置の婦人相談所の措置により、要保護女子を婦人保護施設(都道府県の任意設置。47カ所)に入所させる仕組みがある。婦人相談所や福祉事務所には婦人相談員が「委嘱」されていて、その86%は非常勤だ。
新法では婦人相談所を「女性相談支援センター」に、婦人保護施設を「女性自立支援施設」に改称する。措置入所の仕組みは残す。
婦人相談員は「女性相談支援員」に改称し、都道府県や市町村が「置く」と規定した。外部に仕事を委ねる「委嘱」ではなく、行政職員という位置付けを明確にする。
新法制定に伴い改正される法律は社会福祉法、児童福祉法など30本に及ぶ。売春防止法は1956年の公布以来66年ぶりの改正。法務省所管の婦人補導院法は廃止される。
貧困・DV、自立後押し=困難女性支援法が成立
貧困や家庭内暴力(DV)などに直面する女性の自立に向けて公的支援を強化する困難女性支援法(参院先議の議員立法)が、19日の衆院本会議で全会一致で可決、成立した。包括的な援助に当たる「女性相談支援センター」の設置を都道府県に義務付けることなどが柱。女性支援の根拠法となっていた売春防止法の古い規定も削除した。一部を除き2024年4月から施行する。
新法では、家庭の状況や性的被害などさまざまな事情で問題を抱える女性を支援対象と規定。国が支援に関する基本方針を示し、都道府県が支援強化に向けた計画を策定することを義務付けた。都道府県には、相談対応や一時保護、心身の健康を回復するための援助、就労支援、住宅確保に当たる相談支援センターの設置義務も課した。
また、官民の関係機関が支援内容を協議する会議を設けるよう自治体に要請。国には自治体への財政支援、自治体には民間支援団体への補助などを求めた。
元記事
2022年03月22日福祉新聞編集部
時事通信社(2022/05/19 16:03)