まとめると
入れ墨(タトゥー)の施術をした彫り師に、罰金15万円の有罪判決があった。
医師法17条は、医師でない者が医療行為をすることを禁じている。
判決は、入れ墨は「医療行為」にあたると判断。
医師法
医師でなければ、医業をなしてはならない。
第三十一条
次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第十七条の規定に違反した者
医業 医行為(医療行為)
医業=「医行為(医療行為)」を、反復継続して行うこと、 というところまでは争いがありません。
争いになっているのは「医行為」が何か?という点です。
戦前の大審院判決はまともでした。
① 大判T6.2.10(刑録23-1-49)
<事案> 薬剤師が、患者から病名や容体を聞いて、適合する薬を販売した。
<判決> 患者の病名または容体を聴いて、病状を判断し、適応する薬品を調合投薬することは「医行為」にほかならない。
★ 薬剤師が薬を売るときに病名を聴いただけだ、と争われました。
★ 定義を示さず、当該行為が「医行為」に含まれると判示しただけです。
★(市販薬ではなく処方薬であると仮定するなら)この結論は妥当だと思います。
② 大判S2.11.14(大審院刑事判例集6-453)
<事案> 医学を学んだ事のない者が、自己の経験により患者を診察投薬処方をした。
<判決> 医行為とは、人の疾病を診察治療する行為を指称する。
★ 医学に基づいて診察・投薬したのではないから、医行為ではないと争われました。
★ この定義は問題ないと思います。
③ 大判S9.10.13(大審院刑事判例集13-1357)
<事案> 自己開発の目薬(免許あり)を点眼したり、食塩水で目を洗浄したりした。
<判決> 医行為とは、人の疾病を診察治療する行為を指称する。特殊技能に属する必要はない。
★ 薬として認可された目薬を点眼したり目を食塩水で洗浄することは、高尚にして深淵なる医師の特殊技能に蔵する者ではないと争われました。
★ 定義は問題ないと思います。
最高裁判決もまともだったのですが、、、
最判S30.5.24(刑集9-7-1093)
<事案> 大学助教授の研究助手が、患部に指を押し、交感神経を刺激して興奮状態を調整する治療をした。
<争点> 医行為でもなく、あんま等営業法12の「医療類似行為」でもなく、「掌薫療法」「紅療法」(民間療法?)と同じく法が規制していない放任行為であると争われました。
<判決>
①「心臓が宿替している」といって鳩尾を激しく押されて患者は「心臓がもとの位置にもどったかと思った」と距術していたり、施術中患者が「死んでもよいからやめてくれ」と苦痛を訴えたり、眼球を指圧せられて結膜出血、胸部皮下出血、背部筋肉圧傷の傷害を受けている。
② この両方は助教授と研究助手が医学会で発表した事があり、心臓弁膜症や貧血症の患者はこの両方の耐えないものである。
③以上から、この治療方法は、医師でない、医学上の知識と技能とを有しない者がみだりにこれを行うときは生理上の危険があり、…蛭療法(民間療法?)と同じく外科手術の範囲に属する医行為であると認めるのが相当である。
★ 「医行為」が人の疾病を診察治療する行為を指称するものであることを前提としつつ、医師法が規制していない民間療法との区別の基準として「医師でない、医学上の知識と技能とを有しない者がみだりにこれを行うときは生理上の危険があること」という基準を挙げたものと思われます。
アートメイク事件
今回と類似した事件として、東京地裁H2.3.9(判時1370-159)があります。
<事案>
入れ墨類似の美容行為(あざ、しみ等を目立ちづらくする)について、
<判決>
医行為とは、医師の医学的知識及び技能をもって行うのでなければ人体に危険を生ずるおそれのある行為をいい、これを行う者の主観的目的が医療であるか否かを問わない
★ 「民間療法」と「医行為」を区別する基準が、「医行為」の定義になってしまっています。。
★ アートメイクについては、ほとんど効果がないか乏しい半面、出血・炎症が生じていることや、きわめて高額であることから、詐欺や、傷害(同意は不完全)などを検討すべきではなかったでしょうか?
本判決
本判決については、判決文を見ていないので、何とも言えません。
しかし、報道を見る限り、医行為についてアートメイク事件と同様の定義が用いられているようですので、不当だと思われます。
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元記事
入れ墨彫師に罰金刑=医療行為と判断-大阪地裁
(C)時事通信社(2017/09/27 17:34)
弁護側は、タトゥーは医療行為に当たらず、医師に限定するのは表現の自由や職業選択の自由を保障した憲法に違反するとして無罪を主張していた。
長瀬裁判長は、針を皮膚に突き刺して色素を沈着させる行為は出血を伴い、細菌やウイルスが感染する危険性があると指摘。医師が行わなければ保健衛生上、危害が生じる恐れがある行為と判断した。
被告は、罰金30万円の略式命令を受けたが従わず、裁判を申し立てていた。