まとめると
NHK受信料訴訟 最高裁大法廷判決言渡日が12月6日に指定された。
論点
1 放送法64条が違憲か?
テレビ設置者に受信契約締結を義務づける放送法64条が財産権を保障する憲法25条に反しないか。
2 受信契約成立日
受信契約が成立するは、NHKからの契約申込書が届いた日か、判決確定時か。
① 判決確定時説
民法414条(履行の強制)
② …ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。
民事執行法174条(意思表示の擬制)
① 意思表示をすべきことを債務者に命ずる判決その他の裁判が確定し…たときは、債務者は、その確定又は成立の時に意思表示をしたものとみなす。…。
これらの条項に基づいて、受信契約の承諾の意思表示を求める判決が確定したときに承諾の意思表示をした=契約が成立した、と考えます。
② 契約申込書到達時説
発想としては、国や自治体は、税金などについて自ら調定(調査確定)して、納入を通知すれば、国民・住民は納付する義務を負う、というのと同じものと思われます。
税金については、国民・住民は承諾をしていなくても納付義務を負っているから、通知をするだけで義務を発生させています。
そうであれば、放送法も契約締結義務を定めているので、NHKが申し込みをするだけで契約を成立させていいのではないか?というものと思われます。
③ 東京高裁H25.10.30判決
ただ、本来的には、受信機設置者が放送法に従って自ら承諾の意思表示をすることを原則形態としています。ですから、数日後に承諾の意思表示をした者についても申込到達時に成立するとしてしまうと、申込と承諾で契約が成立するという原則形態からかけ離れてしまいます。
この点、東京高裁H25.10.30判決は、申込書が届いてから承諾に通常要する相当期間(長くとも2週間)経過後に成立するとしています。
これは、原則形態から離れて一方的に契約を成立させてしまうのは、自ら承諾をしない者に限ろうとしたといえます。
裁判をしなくても請求できる?
報道では、「②説・③説では、裁判をしなくても請求ができるようになる。」というコメントが添えられています。
これは、いきなり強制執行をかけられるという意味ではなく、①説では裁判が確定するまでは「契約をして下さい。」としか言えないが、②③説では裁判が確定する前から「受信料○○○○円を支払って下さい。」と言えるというだけです。
受信機設置者が拒否をした場合、NHKは、①説では承諾の意思表示を求める訴訟と受信料支払を求める訴訟を同時に起こして勝訴しなければ強制執行できませんし、②③説でも受信料支払いを求める訴訟で勝訴しなければ強制執行ができません。
3 受信料支払い義務の範囲
受信料支払い義務の範囲は、受信契約成立時からか、テレビ設置の日に遡って義務を負うのか。
これは、NHKが(国会の議決で決められた放送法ではなく)勝手に決めた「受信規約」で「テレビ設置の日に遡って払いなさい。」と定めたら、契約成立前の時期の受信料を請求することが許されるのか?という問題です。
4 時効の起算点
時効受信料の消滅時効は、テレビ設置の日から5年か、契約成立の日(契約申込書到達日or判決確定日)から5年か。
民法166条(消滅時効の進行等)
① 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
テレビ設置の日から受信契約を締結している人の場合、NHKはテレビ設置の日から「受信料○○○○円を支払って下さい。」と権利行使できます。
ですから、5年以上前の受信料については消滅時効を援用して支払を拒否することができます。
受信契約を締結していない人の場合、受信契約が成立するまでは「契約して下さい。」とは言えても、「受信料○○○○円を支払って下さい。」と権利行使はできません。
この場合、契約成立時(申込到達時or判決確定時)から5年以上経過していれば消滅時効を援用できますが、経過していなければ(何十年前も前の受信料だとしても)消滅時効を援用できなくなります。
元記事
NHK受信料訴訟、12月6日に判決 最高裁が初判断へ
2017年11月2日10時54分 朝日新聞デジタル