凍結受精卵無断移植でも親子―外国人男性の「父子関係不存在」訴え却下

まとめると

 事実の経緯

H16 結婚

H21 不妊治療のため妻との受精卵を凍結保存。

H23 長男誕生(受精卵移植による)

H25.10 夫婦は関係が悪化して別居。

H26 夫に無断で妻が受精卵を移植。

H27.4 長女誕生

H28.10 離婚。

 訴え

H29.1 男性は、夫婦関係は事実上、破綻していて妻が受精卵を使うことに同意していないため、推定は及ばず、子どもとは法律上の親子関係がないと訴えた

 

 判決

 訴え却下

 

 嫡出否認の訴

772条(嫡出の推定)

① 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

② 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

 

774条(嫡出の否認)
第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。

775条(嫡出否認の訴え)
前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う


777条(嫡出否認の訴えの出訴期間)
嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない。

 

嫡出否認の訴以外の方法で、父子関係を否認できるか?

 民法の条文からの帰結

できない。

そのような訴え(父子関係不存在確認訴訟)は不適法であり訴えは却下される(最判S55.3.27判タ419-86)。

(理由)

 ① 妻の婚姻中の懐胎子も夫の子でない場合がありうるが、家庭の平和のために一応これを全て夫の子として扱う。

 ② 夫が自らの家庭の秘事を暴露してまでも父子関係を否定しようと欲するときにのみこれを否定することを可能とする。

 ③ ただし、その期間を制限することで、可及的速やかに父子関係を確定し、身分的法秩序の安定を図る。

 ④ 子の側からしても、一々父子関係を立証する必要がなく、当然に嫡出子として取り扱われる点では有利。

 判例・学説による修正

 真実に合致した身分関係を形成するかどうかを夫の感情にかからせていることになるが、それでいいのか?

 

 夫自身にとっても時には束縛になる(他人の子の父であることを意思に反して強いられる?)ことがないとは言えない。

 

 子にとっては、不本意でも真実の父でない夫の子として拘束され、真実の父を探求し得ない場合が生じるうるという点で過酷な制度。

 

 夫婦間に通常の一見平穏な家庭生活が営まれている場合には、このような結果も家庭の平和の保護という法律の一方の理念の前には耐えるべきものとする理由がある。

 

 しかし、夫の子を懐胎し得ない明白な事実があり、家庭内の秘事に立ち入るまでもなく父子関係を否定しうる場合に、それにもかかわらずなお真実に反する父子関係を維持しなければならないと言うことは、もはや家庭の平和の保護とは関係のないこと。

 

 可及的に真実の血縁関係に合致した法律上の父子関係を形成しようという法律の基本的な理想からは、全く容認しがたいものとされる。

 

 そこで、夫婦同棲が全く欠けており、そのことが外見から明白な場合には、772条を適用する理由がないので、次のような場合「推定が及ばない」として、父子関係不存在確認訴訟を認めている。

 

① 母とその夫が離婚の届出に先立ち約二年半以前から事実上の離婚をして別居し、まったく交渉を絶って、夫婦の実態が失われていた場合(最判S44.5.29民集23-6-1064)

 

② 母親が懐胎したと推認される当時父親は出征していていまだ帰還していなかった場合(最判H10.8.31家月51-4-33が挙げる例)


本件の判決 

原告男性は、2人は妊娠当時、婚姻関係自体は継続。原告男性側は別居して性行為はなく、元妻が凍結受精卵の移植を受ける際に同意の確認も求められなかったとして推定は及ばないと主張していた。

 

判決は、今回のケースでは元妻が妊娠した当時の交流状況などから、原告男性は民法上、子供の父親と推定される立場にあると判断した。

 

コメント

 嫡出否認の訴は、「出生後1年以内」という点で、夫に無理を強いているような気がします。

 また、例外的に父子関係不存在確認の訴を認める場合についても、懐胎時に夫婦の実態が失われたいた場合に限るのは合理性はないように思われます。

 父子関係不存在確認の訴えで争えるとした上で、既に社会的に父子関係を築いている場合などには権利濫用等の理由で不存在確認請求を棄却するという形での調整の方が合理的だと思われます。

 

 本件については、血縁上の父子関係もありますし、妊娠中に離婚してしまった場合などは一度も一緒に暮らしたことはないけれども親子だという場合もあり得ます。

 ですから、父子関係不存在を認めない結論はやむを得ないと思います。

 

 妻が勝手に受精卵を移植したという点は、扶養の請求があった場合に、それが権利濫用にあたるのではないか?という問題に影響を与える要素ではありますが、父子関係の存否に影響を与える要素ではないように思われます。

 

 原告の男性は凍結受精卵の移植の際に同意を求められないまま父となったことで精神的な苦痛を受けたとして、クリニックと元妻に対する計2千万円の損害賠償訴訟も奈良地裁に起こしているとのことです。

 こちらが、しかるべき賠償が認められるべきだと思います。

 

元記事

受精卵無断移植 親子関係判断へ
NHK 関西 NEWS WEB 大阪放送局 12月14日 16時28分

 

凍結受精卵無断移植でも親子―外国人男性の「父子関係不存在」訴え却下 奈良家裁 産経WEST 2017.12.15 13:28

 

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2017年12月15日|ブログのカテゴリー:親子, 親族法