まとめると
福井市内の交番前で覚醒剤に見せかけた白い粉の入った袋を落として逃走し、警察官に追跡させる動画が動画サイト「ユーチューブ」に投稿された事件
捜査にあたった警察官が本来行う予定であった他の業務が妨害されたとして、偽計業務妨害罪で罰金40万円の略式起訴がされたが、正式起訴を求めた。
福井簡裁の初公判で、被告人は、啓発のためであり無罪を主張。
弁護人は警察業務は強制力のある「権力的公務」で、偽計業務妨害罪が対象とする「業務」には当たらないと主張。
これまでの経過
刑法
233条【業務妨害】
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
95条【公務執行妨害】
① 公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
「業務」
「公務」を妨害した場合に、業務妨害罪が成立するかで見解は分かれてきました。
判例・裁判例
① 成立 偽計による裁判所の競売妨害(大判M42.2.19刑録15-120)
② 不成立 教育勅語謄本等を隠匿(偽計)(大判T4.5.21刑録21-663)
③ 成立 郵便集配人(非公務員)の郵便業務(大判T8.4.2刑録25-375)
④ 不成立 武装警官の職務に対する威力業務妨害(最判S26.7.18刑集5-8-1491)
⑤ 成立 国鉄の貨車運行に対する威力業務妨害(最判S35.11.18刑集14-13-1713、最判S41.11.30刑集20-9-1076)
⑥ 成立 県議会委員会における条例案採択に対する威力業務妨害(S62.3.12刑集41-2-140)
⑦ 成立 選挙長の立候補届出受理事務に対する偽計および威力業務妨害(最判H12.2.17刑集54-2-38)
学説
① 全て不成立(吉川)
批判)公務も、暴行・脅迫以外の妨害から保護されるべき。
② 非公務員の公務のみ成立(内藤)
批判)公務員の公務も、暴行・脅迫以外の妨害から保護されるべき。
③ すべて成立(植松・大谷)
批判)強制力を行使する権力的公務は、暴行・脅迫に至らない妨害に対しては保護の必要性が欠ける。
④ 一定の公務(現業性・民間類似性・非権力性)のみ成立(団藤・前田、なお、福田・大塚・西田は公務執行妨害罪の対象にもなるとする)
批判)強制力は偽計に対しては無力
⑤ 偽計については全て成立、威力については一定の公務(現業性・民間類似性・非権力性)についてのみ成立(公務執行妨害の対象にもなる)(山口p158)
「判例」になるかも
被告人は争う気満々のようですし、偽計で権力的公務を妨害したという事案は最高裁の判例にはみあたりません。そして、上記⑤説の山口教授が最高裁判事に就任されたばかりですので、この事案で判例が形成されるかもしれません。
元記事
「白い粉」ユーチューバー無罪主張 初公判で「覚醒剤撲滅のため」