強制わいせつ「性的意図」不要  最高裁大法廷判決

まとめると

犯人の性的意図がなかった場合にも強制わいせつ罪が成立するかどうか争われていた裁判で、最高裁の大法廷判決がでました。

 

行為者が、性的意図ではなく金銭目的でわいせつ行為を行った場合でも、強制わいせつ罪は成立する、との結論です(全員一致)。

昭和45年判決、学説

昭和45年判決や学説については、以前の記事(強制わいせつ「性的意図」不要か=大法廷で弁論、判例見直しも-最高裁)にまとめています。

 

昭和45年判決を維持できない理由

① 刑法の条文上、性的意図を要する事が規定されていない。

② 昭和45年判例当時も、性的意図不要説も有力に主張されていた。

③ 昭和45年判例は、性的意図の有無で、刑が重くなったり(強制わいせつ罪)軽くなったり(強要罪)するのか理由を明らかにしていない。

④ 昭和45年判例は、強姦罪には性的意図を要しないとされていることと整合しない。

⑤ 昭和45年判例当時の学説はドイツ法の影響を受けていたが、その後ドイツ法は改正されている。

⑥ 性的な被害に関する社会の一般的な受け止め方が変化している(例えば平成16年と平成29年の刑法改正)。

⑦ 強制わいせつ罪の成否は、被害者の受けた性的な被害の有無やその内容、程度にこそ目を向けるべき。

 

→ いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄である

 

「わいせつな行為」かどうかの判断

① 強姦罪に連なる行為のように,行為そのものが持つ性的性質が明確であるもの。

  → 当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず,直ちにわいせつな行為と評価できる。

 

② 行為そのものが持つ性的性質が不明確なもの。

 → 当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難い。

 → 個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。

 → しかし,そのような場合があるとしても,故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でない。

 

本件の事案の場合

当該行為そのものが持つ性的性質が明確な行為である。

→ その他の事情を考慮するまでもなく,強制わいせつ罪が成立する。

 

疑問点

「行為そのものが持つ性的意図が不明確なもの」は、どのような場合なのでしょうか?具体例が思い当たりません。

 

また、従来の裁判例、学説では、わいせつ行為とは

①「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する(行為)」(名古屋高裁金沢支部S36.5.2下刑集3-5=6-399)

②被害者に性的な羞恥心を抱かせるに足る客観的行為(前田第2版p108)

③性的な意味を有する行為、本人の性的羞恥心の対象となるような行為(山口p103)

とられており、具体例としても、当該行為そのものが持つ性的性質が明確な行為ばかり挙げられていました(前掲前田・山口、大塚改訂版p97)。

 

そうだとすると「行為そのものが持つ性的意図が不明確なもの」は、従来は、わいせつ行為には当然当たらないとされていたのに、この判決で処罰の範囲が広がったように思われます。

でも、それが具体的にどのようなものなのか分かりません。

 

  性的性質が明確な行為 行為そのものがもつ性的意図が不明確なもの
昭和45年判決 性的意図が必要 ★★わいせつ行為とはされていなかった?★★
平成29年判決 性的意図は不要 具体的状況等(性的意図を含む)を考慮してわいせつ行為かどうか判断

 

元記事

平成28(あ)1731 児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,犯罪による収益の移転防止に関する法律違反被告事件 平成29年11月29日 最高裁判所大法廷



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2017年11月29日