まとめると
文化審議会著作権分科会は、私的利用目的でのダウンロードが違法となる対象範囲の拡大を検討。
平成31年２月13日、音楽や動画のみの現状から漫画など著作物全般に拡大する内容の報告書（案）を作成。
2月19日、法学者や弁護士を中心とした84人と1団体が連名で、「さらに慎重な議論を重ねることが必要」とする緊急声明を発表した。
報告書（案）
本文だけで１６８ページもあります。
４５～６５ページが、ダウンロード違法化に関する部分です。
いろいろ書かれていますが、録音・録画については、私的使用のための複製についても違法としている著作権法３０条１項３号(民事)・同１１９条３項（刑事）を、そのまま著作物全体に拡大するもののようです。
著作権法（民事）
（私的使用のための複製）
第三十条 …著作物…は、…私的使用…を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
一 略
二 略
三 著作権を侵害する自動公衆送信…を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合
著作権法（刑事罰）
第百十九条第三項
第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等…の著作権…を侵害する…自動公衆送信…を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権…を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
「ダウンロード違法化の対象範囲の見直し」に関する緊急声明
批判１
〔１〕ダウンロード違法化の対象範囲について、立法措置を図るに際しては、さらに慎重な議論を重ねることが必要であると考える。
審議は異例のスピードで行われた
文化審議会におけるダウンロード違法化の対象範囲の見直しについての検討は、海賊版対策の緊急性に鑑み、実質的には 2018 年 10 月末からの約３か月間に 5 回の法制・基本問題小委員会（以下、小委員会）の開催という異例のスピードで行われた。
検討が不十分
① 小委員会における議論にも拘らず、なおクリエーターやネットユーザー等からの新たな懸念の声が生じており、
クリエイターの懸念
漫画家などクリエイターからは「創作活動に画像ダウンロードなど情報収集は不可欠。解釈次第で違法になるようでは活動が萎縮してしまう」との懸念が生じている。
ネットユーザーの懸念
「ダウンロードする行為」にスクリーンショットも含まれることから「何をしたら違法なのか、線引きが分からない」とネットユーザーからも混乱の声が上がっていた。
② 法改正の前提となる立法事実、法改正が国民生活に及ぼす影響については、いまだ十分な検討がされているとはいえない。
③ 対象範囲を拡大する際の具体的な制度設計のあり方（特に民事的規制の範囲）についても議論が大きく分かれている状況である。
④ 刑事罰の適用範囲についても、本来は、現行著作権法 119 条 1 項が著作権侵害行為一般を処罰対象としていることの是非も含めた検討が行われるべきものである。
過度の萎縮効果・国民の信頼の失墜
拙速な法改正は、私的領域における情報収集の自由に対して過度の萎縮効果を及ぼすとともに、著作権制度の妥当性について国民の信頼を失わせるものともなりかねない。
結論
ダウンロード違法化の対象範囲の見直しについては、なお検討すべき課題があり、立法措置を図るに際しては、さらに慎重な議論を重ねることが必要である。
批判２
少なくとも、民事的規制及び刑事罰のいずれについても、規制対象を被害実態の明らかになっている海賊版対策に必要な範囲に客観的な要件により限定し、刑事罰についてはその萎縮効果の大きさに鑑みて更なる限定を行うことが不可欠であると考える。
海賊版対策に限定すべき
立法府が実効的な海賊版対策を早急に実現する必要があると判断し、2019 年の通常国会中に法改正に向けた検討が進められる場合には、その法改正は、あくまで被害が深刻な海賊版への対策に必要な範囲に限定されるべきである。
民事的規制の要件
海賊版対策に必要な範囲に限定し、国民の自由に対する過度の制約を避けるためには、少なくとも、民事的規制・刑事罰ともに、「原作のまま」及び「著作権者の利益が不当に害される場合に限る」との要件を定めることが必要であり、
刑事罰の要件
刑事罰についてはさらに悪質な行為に限定する等の謙抑的な対応が求められる。
元記事
法学者ら84人「ダウンロード違法化」に緊急声明 「海賊版対策に必要な範囲に限定せよ」 2019年02月19日 15時14分 公開 [井上輝一，ITmedia]
