まとめると
「嫡出否認の訴え」が夫のみにしか認められていない民法の規定は法の下の平等を定めた憲法に違反するとして、兵庫県内の60代女性と娘、孫2人の計4人が国に計220万円の損害賠償を求めた訴
神戸地裁は11月29日、規定は合憲とし、請求を棄却した。
嫡出否認の訴
民法第774条(嫡出否認の訴)
婚姻の解消の日から300日以内に子が生まれた場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。
経緯
1980年代、夫から暴力を受けて別居、他の男性との間で娘が生まれた。
その後離婚成立。血縁上の父を父とする出生届を提出したが不受理。
嫡出否認の訴えを検討したが、元夫からしか訴えることができない。
血縁上の父に対する強制認知の調停を申し立てたが、元夫の証言が必要といわれ取り下げた。
その後、娘と孫は無戸籍のままだった。
2016年に元夫が死亡したので、(手段は分かりませんが)無戸籍状態が解消された。
3つの方法
戸籍上、血縁上の父の子としてもらうには、3つの方法があります。
血縁上の父に対する強制認知の調停
強制認知では、①元夫の子ではないこと、②血縁上の父の子であること、を証明する必要があります。
現在では、②をDNA鑑定で立証できるので、①は妻が当時の事情を裁判官に説明する程度で認められています。→ 300日問題(2)
しかし、1980年代は、DNA鑑定が利用できなかったので、①についてきちんと立証することが求められたのだと思われます。
ちょうどそのころ、夫が海外に行っていたとか、刑務所に入っていたとか、客観的に証明できればいいのですが、それができない場合は元夫の証言が求められたのだと思われます。
国賠請求
国家賠償法
第一条 【公権力の行使に基づく損害の賠償責任、求償権】
① 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
立法の不作為
今回の訴訟は立法の不作為について国家賠償を求めるものですが、その間口はものすごく狭いものとなっています。
1 最判S60.11.21(民集39-7-1512)
国会議員の立法行為は、本質的に政治的なものであって、その性質上法的規制の対象になじまず、…あるべき立法行為を措定して具体的立法行為の適否を法的に評価するということは、原則的に許されず、国会議員の立法行為は、…容易に想定しがたいような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けない。
2 最判H17.9.14(判時1908-36)
立法の内容又は立法不作為が、
① 国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合
② 国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず
③ 国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合
国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。
本件について
神戸地裁は、下記のような理由で違法性を否定した。
①夫にのみ否認権を認めることは「生物学上と法律上の父子関係を一致させる要請と、早期に父子関係を確定し身分関係の法的安定を保持する要請との妥協点で、合理性がある」
②また、本件のようなケースについて、「訴訟手続き上の個人情報の秘匿や、夫の暴力から保護する法整備などが必要」と言及。こうした対策がなければ、妻に嫡出否認の提訴権を認めても行使は困難なことがあると指摘した。
でもやっぱりおかしい
しかし、嫡出否認の訴えを、夫がだけができて、妻ができないのは、全く理由が理解できません。
元記事
時事ドットコムニュース (2017/11/29-16:44)